2018.8.29 | カテゴリ:ブログ
真っ直ぐな眼差し<後編>

おはようございます。宮川綾子です。
昨日は、愛犬ごんのお話の前編を
掲載させていただきました。
「真っ直ぐな眼差し<前編>」
今日は、その続き、後編のお話です。
母に家をでることの提案をしてきました。
母はC型肝炎でもありましたので、
母の健康が本当に心配だったのです。
それでも母には届きませんでした。
ところが、その時、母は決意したのです。
私の『説得』は機能しませんでしたが、
大切なものを守りたいという気持ちは
人を大きく動かすのですね。
母が家を出ることを決意した一番の理由は
ごんのためでした。
ですが、それは、
母の中の「生きたい」という思いを呼び覚まし、
自分自身を大切にする生き方への、
大きなきっかけともなった出来事でした。
近くのコンテナ倉庫を借りて、
夜な夜なそこに生活に必要なものを
少しずつ運びだしました。
ペット飼育可のマンションの賃貸契約を結び、
母とごんと家を出る態勢を整えていきました。
家を出ることをどう父に説明するか、
それが最後の関門となりました。
これは事実必要なことだったのですが、
正当な理由と思いますが、
我が家で通用する理由には思えませんでした。
それでも、その一点張りで、
強引に家を出ることにしたのでした。
…そう…こんなこともありました。
荷物を整理していた時、
一枚のカードが出てきました。
何だろうと思って開いてみたら、
高校生位のものだったでしょうか、
自分の字でこう書かれていました。
「この手紙を見ただれかさんへ
たすけてくれて、ありがとう」
…だれかさんって…自分だったんだ…
家を出る時は夜になっていました。
父は玄関先まで出てきました。
「じゃぁ…」
と父に言って、
車の後部座席にごんを乗せました。
玄関で立っている父のことを
じっと見つめていました。
それから、くるっと私の方を向き、
真っ直ぐに、瞬き一つせず、
じっと私を見つめました。
ごんは、
「いいの?」
と聞いているようでした。
そんな思いを持ちながら、
私はごんの頬を撫でました。
そして、前を向き、車のエンジンをかけました。
それから、『3人』の生活が始まりました。
4か月後には母は肝臓がんであることがわかり、
ごんは、脳下垂体に腫瘍ができる
クッシング症候群という病気を患っていましたが、
私たちはとても幸せでした。
穏やかで、何ものにも代えられない
かけがえのない時を過ごしました。
家を出て1年経った頃から、
ごんは弱っていきました。
目の焦点が合わなくなって、
目を合わすことができなくなってしまいました。
ぐるぐると徘徊をするのですが、足腰も弱り、
2、3歩歩くと倒れてしまうように
なってしまいました。
そして10年前の1月11日の午前1時前、
ごんのうめくような声が聞こえました。
おしっこなのかなと思い、
私はごんを支え、立たそうとしました。
ごんも自分で立とうとしたのですが、
その場に崩れ落ちるように倒れてしまいました。
私は母を大声で呼び、
二人でごんを抱きかかえました。
そして、私たちは『その時』が来たことを知りました。
私たちは泣きながら、
同じ言葉を何度も繰り返していました。
ごん、ごんちゃん、ありがとう、ありがとね…
すると、ごんのお口がパクパクと、
たしかに、こう動いたのでした。
「あ」「り」「が」「と」
そして、ごんは息を引き取りました。
閉じられた口もとは微笑んでいるようでした。
翌日、ごんが亡くなったことを、
母は父に電話して知らせました。
すると、父はこう言ったのでした。
「あぁ…そうか…。
アイツ、ゆうべ、夢にでてきたよ…。」
家を出たあの夜、
ごんは、その真っ直ぐな眼差しで、
いったい何を見ていたのだろう? と思うのです。
私の勝手な解釈でありますが、
ごんは、私たちのありのままの姿を、
そして、私たちの奥にある『善』を
見ていたような気がするのです。
どんな形であれ、私たちは家族でした。
ごんにはごんの思いがあったことでしょう。
ごんの魂は肉体から抜け出し、時空を越えて、
家族である父に、
伝えていったのかもしれません。
ごんが亡くなった2年後には、母も他界します。
そうした状況になって、
私は初めて父と向き合えた
と言ってもよいかもしれません。
そして、父の優しさ、愛を知ることになるのですが、
おそらく、ごんはずっと前から知っていたことでしょう。
ごんの目が、そう語っていましたから…
私たちにはそれぞれ人生の課題があります。
その時は手に負えないと思っても、
私たちにはそれを超える力が
元々備わっているのでしょう。
起こることには意味がある
その時は、それを心から理解するのは、
難しいことがあるかもしれません。
でも、それを信頼することができたなら、
心には安らぎがもたらされることでしょう。
ごんは、その名前に込めた思いのように、
勇敢で逞しく、
愛嬌があって、やさしくて、
多くの人たちから愛されたわんちゃんでした。
私はごんから、大切なことを、
生きていくうえで、本当に大切なことを
たくさん教えてもらいました。
私は今も、ふとした時に、
かつてそうであったように、
おさんぽ帰りの母とごんが
横断歩道の向こう側から、
笑顔で手とおしっぽを
振っているような気がすることがあります。
そして、
「大丈夫だからね」
叡智となった存在は、いつも優しく、
そう言ってくれている気がするのです。

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前編、後編と長文をお読みくださり、
ほんとうにありがとうございました。
ごんのことを知っていただけて、とても嬉しいです。
残暑厳しい日が続いております。
皆さま、どうぞお身体を大切に、
今日も良い一日をお過ごしくださいませ。